まなぶひと #16

トビタテ!地域人材コース第1期生

グローカル人材の育成を目指す
山形と海外のWインターンシップ。

2019.04.15

グローカル人材の育成を目指す 山形と海外のWインターンシップ。

「やまがたの未来を切り開く グローカル人材育成プログラム」の第一期派遣留学生として山形県内企業と海外でのインターンシップに挑んだ学生は14名。今回は、その代表としてミャンマー、中国、アメリカ、インドネシアへの留学を経験した4名が座談会に臨んだ。国際交流担当理事の安田弘法先生を囲んでそれぞれの体験談や価値観の変化などを語り合い、国内外でのWインターンシップというユニークな本プログラムの意義や魅力を再認識した。

やまがたの未来を切り開くグローカル人材育成プログラムの説明図

国内外の派遣先は?
プログラムに参加した
きっかけは何ですか?

安田 では、はじめに国内外の派遣先とプログラムに参加したきっかけを教えてください。
大友 私は学部の研修で一度訪れたことのあるミャンマーに行ってきました。その時に仲良くなった現地の学生とまた一緒に勉強したい、語学力の高い彼らに刺激を受けて英語力を磨きたい、と思ったからです。国内では、山形のことをもっとよく知るために山形新聞社を選びました。
柿崎 私は、米の乾燥機やコイン精米機など、環境に配慮した製品を作っている東根市の山本製作所と、留学先はその関連企業である蘇州瑞穂機械有限公司です。このプログラムに参加したきっかけは、勉強と部活に打ち込む毎日で、高校時代とあまり変わらない大学生活に満足できず、何か自分に刺激を与えたいと考えたからです。
安田 2年ほど前に、山本製作所の社長とこのプログラムの件でお会いしましたが、山本製作所では、農学部の卒業生も入社して頑張っているという話もいただきました。続いて、柴田さん、お願いします。
柴田 国内では、天童市のチノー山形事業所へ、海外はアメリカのNPO団体Breathe Californiaへ行きました。私は、もともと海外就職や海外派遣に興味を持っており、海外の人の働き方、地域との関わり方を学びたいと考えて志望しました。
志村 私の国内インターンシップ先は、以前から国際協力の仕事に興味があったので、難民支援などを行っている認定NPO法人IVYへ、留学先は研究室の先輩が講師をしているインドネシアのモハメディアン大学です。私は、タニシが水田に及ぼす影響を研究していて、温帯である日本と同じような効果が熱帯地域でも見られるかを研究したいと思い、このプログラムに参加しました。
安田 農学部にはインドネシアからの留学生が多く、志村さんが話したモハメディアン大学で講師をしている人は、私の研究室で学んでいた方です。

柴田さんの派遣先での様子

国内外でどんなことを
経験してきましたか?

安田 では次に、インターンシップ先では皆さんがどんな経験をしたのか、少し具体的な話を聞かせてもらいましょう。
大友 ミャンマーの学校で日本語の授業を担当させてもらい、カタカナやひらがなを教えるなど、日本語教育を行いました。それから、国内のインターンシップ先が新聞社だったので、ミャンマーでも情報機関3社に行き、インタビューなどをさせていただきました。一方、新聞社と聞くと私には記者のイメージしかありませんでしたが、実は職種のデパートと言っていいほど多くの部署があり、山形新聞社では本当に様々な経験をさせてもらい、大きな収穫が得られたように感じています。
柿崎 私の場合、「これがやりたい」と提案すると、「じゃ、やってみようか」とフレキシブルに対応してもらえました。特に印象に残っているのは、中国で海外の穀物乾燥機の修理に同行させてもらった時で、日本のそれとはまったく違っていて、その巨大さに日本と世界の差を実感しました。
安田 中国やアメリカとは確かにスケールの差を感じますよね。
柴田 国内のチノーでは、いろんな部署を経験させてもらい、製品の一部を作る体験もしました。その中でも最も印象的だったのは、普通、インターンだと部外者としての活動が多いと思うんですが、会社の一員として東京出張にも同行させてもらい、天童市の会社が一堂に集まって行う地域の清掃活動もさせてもらいました。おかげで、他社の方とも話ができて、会社の人間という視点で会社を見ることができました。アメリカでは、「化学が得意です」とアピールして、関連の仕事をやらせてもらいました。
安田 インターンシップを行う上での意見交換会では、企業の方から「インターンシップに来てくれる学生と社員が接することで若い人の考えや提案など、いろんなことが吸収できるところも期待している」との声も聞かれました。
志村 国内のIVYでは、ワークショップ形式で事業内容を教えてもらった上で、計画書作成のための資料まとめを任せてもらったり、あるプロジェクト終了後の評価をまとめる作業を行わせてもらいました。インドネシアでは、容器の中に“ミニ田んぼ”を再現して、タニシの有無を変えた実験に挑戦しました。
安田 農薬や化学肥料といったケミカルに頼った農業が環境や人体に及ぼす影響を考えて、それらを使わずに米を生産する手法のひとつとしてタニシが注目されているんですね。昔から、タニシがいると米がたくさん穫れると言われているからです。

大友さんの派遣先での様子

インターンシップを
通してどんなことが印象に
残りましたか?

安田 今度は、うまくできたこと、逆に大変だったことを聞いてみたいと思います。
大友 私が行った学校には日本語を教える日本人の先生はいなかったので、「日本人から日本語を習うのは初めて」と喜ばれたことがとても嬉しかったです。しかも、学生と同年代なので、話しやすい環境がつくれたと思います。その学生たちとは今もつながっていて、電話やメッセンジャーで連絡を取り合っています。
安田 こういうご縁は大事です。縁を大事にするといい縁が広がります。今、同世代という話がありましたが、海外のサテライトで日本語を教える学生大使というプログラムがあって、そこには海外から学生を派遣してほしいとの依頼が殺到しています。同世代と話せることがポイントのようです。現地では年配の方が日本語を教えるケースが多く、同世代から教わると話題が身近なこともあって上達が早いと言います。
柿崎 留学する直前になってもビザが取れなくて大変でした。でも、なんとか手段を尽くして留学することができて、自分の底力に嬉しい驚きがありました。留学先でのコミュニケーションは中国語と英語。最初は中々うまくいきませんでしたが、言葉の壁を越えて徐々に相手の思いが酌み取れるようになりました。
安田 一人での海外体験は、大変な分、学びも多いですね。団体で行くのとはまったく違います。頼れるのは自分だけ。一度経験すると次からはスムーズに対応できるようになるものです。
柴田 アメリカでも国内でもインターンシップの最終日にプレゼンをしました。今までの自分なら断ったと思いますが、今回は「やる」と言っちゃいました。前日に急いで資料づくりをして、部長、所長クラスの人たちの前で発表。自分ではうまくできたと思っていて、就活の大きな自信になりました。
安田 背水の陣ではありませんが、やらざるを得ない状況をつくると、なんとかできてしまうものです。やらずに後悔するよりも、まずやってみる。もし失敗したとしても、そこから何かを学んだ方がずっといいということですね。志村さんはいかがですか。
志村 インドネシアでは、研究室や装置が自由に使えないなどで実験が計画通りに進まず、日本ではとても恵まれた環境で実験ができていたことを実感しました。その反面、人はとても温かくて、助け合う気質があるというか、現地の学生が大勢手伝ってくれたことには感動しました。

柿崎さんの派遣先での様子

どんなところで
成長できましたか?
価値観の変化はありましたか?

安田 海外に行って変わったこと、価値観の変化などはありましたか。
大友 一人での海外は初めてだったので、心細くて最初の夜はホテルで号泣。でも、自分で気持ちを上げるしかないとがんばりました。おかげで、その後何かあっても「ミャンマーで乗り切れたんだからできないわけがない」と思えるようになり、今では大変な方を選ぶようになりました。それから、恵まれない状況の中で勉強に励んでいるミャンマーの学生たちのモチベーションの高さに、自分の大学生活ももっと濃いものにしなくちゃと思うようになりました。
柿崎 海外に行くことのハードルが下がったのと同時に、地元にも世界で戦える企業があることを知り、地域を見る目も変わりました。そして、人の温かさなど、海外も日本と変わらない部分にも気づき、もっと海外と関わりたいと思うようになりました。
安田 まさに、グローカル化。地域にも伸びる会社があり、熱い社長がいるからね。
柴田 私は、やってから考えるようになりました。先週も思い立ってベトナムに行ったり、起業した人の会に参加したり、人脈のことなども考えるようになりました。
志村 私は、物事の見方、考え方の多様性を実感し、どんなピンチも捉え方ひとつでチャンスに変えられる気がしてきました。

志村さんの派遣先での様子

海外で学ぶ魅力は
どんなところにありますか?

安田 では最後に、海外で学ぶ魅力とは何でしょうか?留学を考えている後輩たちへ、参考のためにもいろいろな話を聞かせてください。
大友 私の留学先がミャンマーだと告げると、多くの人が「どうして?」という反応でした。でも、私はミャンマーに対していい印象しかなくて。生活面でちょっと不便なことはあっても、ごはんはおいしいし、何よりも人がいいんです。人のために何かすることが好きな人たち。皆さんが抱いているイメージを変えたいですね。言語は違っても一緒にいるのがきっと心地よく思える人たちです。ぜひ、ミャンマーへ。
柿崎 私は逆に、中国に対してあまりいいイメージはありませんでした。家族も少し心配そうな反応でした。でも、実際に行ってみると蘇州の空はとても青かったし、とても優しくしてもらいました。テレビやネットの情報に惑わされずに自分自身の経験・知識で判断すべきだと思いました。とりあえずやってみよう、行ってみよう!って言いたいです。
柴田 私は海外に行ったことで自己肯定感が湧きました。軸ができて、迷いがなくなった気がします。今までは、もう23歳だし就職するしかないと思っていました。でも、留学先のシェアハウスでいろんな人に出会い、その人たちの境遇や意欲を聞くうちに、「まだ23歳、まだまだいける!」と、自分がやりたいことを自分で否定することが減りました。
安田 いいですね。大学生はもっとも自由度が高くていろんなことに挑戦できる時期。自己肯定感は大事だね。
志村 ありきたりかもしれませんが、新しい考え方が学べるということだと思います。私の留学先は多民族、多文化で、それらを互いに認め合う考え方も強いんです。日本で窮屈さを感じている人も、ここでは自分は自分でいいんだと思える感じがします。
安田 実際に行ってみて、接して得られる経験は何ものにも変えがたいもの。後輩の皆さんにもどんどん飛び立ってほしいですね。本日は、興味深い話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

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やすだひろのり

やすだひろのり●学長代理、理事(教育、学生支援、国際交流担当)副学長。島根県出身。専門は生態学、応用昆虫学。宇都宮大学農学部卒業、名古屋大学農学研究科博士課程単位取得満期退学。国際交流担当理事として海外の大学を訪問する機会も多く、国際感覚豊か。

しばたこう

しばたこう●秋田県出身。理工学研究科1年。国内インターンシップは、チノー山形事業所。留学先はアメリカの地域密着型NPO団体Breathe California。専攻している化学の専門性を高め、海外就職または海外派遣を目指す。

おおともはなこ

おおともはなこ●宮城県出身。人文社会科学部2年。国内インターンシップは山形新聞社。留学先はミャンマーのHumanity Instituteで主に日本語教育を担当。学部のプログラムで訪れたミャンマーに興味を持ち、留学先として選んだ。

かきざきなおと

かきざきなおと●秋田県出身。工学部3年。国内インターンシップは山本製作所で、留学先は関連企業の「蘇州瑞穂機械有限公司」。3年間の大学生活に納得できずに刺激を求めて参加。留学先で世界と日本のスケールの差を実感。

しむらまさみ

しむらまさみ●埼玉県出身。農学研究科1年。国内インターンシップは認定NPO法人IVY。留学先は、タニシの研究を熱帯地域で行うためにインドネシアのモハメディアン大学へ。国際協力などでインドネシアと関わり続けることを希望。

※内容や所属等は2019年3月当時のものです。

みどり樹

この内容は
山形大学広報誌「みどり樹」
Vol.75(2019年3月発行)にも
掲載されています。

[PDF/2.5MB]

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