まなぶひと #27

飯田茜

アルツハイマー病の解明に挑み、
数々の受賞を糧に、さらに前へ。

2021.03.30

アルツハイマー病の解明に挑み、数々の受賞を糧に、さらに前へ。

高校時代から科学への関心が高く、進学先としてごく自然に理学部を選んだという飯田茜さん。現在は専攻分野の研究を進める一方で、グローバルリーダーを養成するプログラムにも理学系1期生として参加している。並河教授のもとで4年次から取り組んでいるアルツハイマー病に関する研究が、学会などで様々な賞を受賞。学術雑誌に論文を掲載する機会にも恵まれ、それらを自信にさらなる成長を誓う。

医学でも薬学でもなく、理学。
科学の視点で病気を解明したい。

 栃木県出身の飯田さんは、高校時代、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)で月に1度大学に行き、食品添加物の研究に取り組んでいたという生粋のリケジョ。母親が添加物を極力使用しない食品を取り扱う仕事をしていた影響もあり、かなり早い時期から食や病気に関心があったようだ。そして、医学や薬学ではなく、科学の視点から病気が解明できたら面白いのではないか、との思いから理学部を志望した。なかでも、化学を軸に物理も生物も学べる本学の物質生命化学科(当時)に魅力を感じて本学を進学先に決めた。
 大学では、物理化学、非平衡化学が専門の並河英紀教授のもとで、アルツハイマー病の発症機構を解明する研究に取り組んでいる。超高齢化社会を迎えている日本での認知症患者数は、予備軍も含め1,000万人にものぼると言われており、その中でもアルツハイマー型認知症は最も多い神経変性疾患。現状では、進行を遅らせることはできても治すことはできない。ある意味、さまざまな治療法のあるがんよりも深刻で、記憶がなくなっていくため、本人や家族にとって辛い病気だ。「もしも、数十年後に自分の両親が罹ってしまったらと想像すると、なんとしても治してあげたい、いや、罹らないようにしてあげたい。だから、そのメカニズムを解明したい」という親孝行な気持ちが飯田さんの一番のモチベーションになっている。

蛍光顕微鏡で脂質膜上のアミノロイドβタンパク質が凝集する様子を観察する飯田さん

蛍光顕微鏡で脂質膜上のアミノロイドβタンパク質が凝集する様子を観察する飯田さん。分子レベルで起こっている現象を解明すべく実験を続けている。

蛍光顕微鏡の画像

アミノロイドβの凝縮メカニズムを解明するために、生体内を模倣した非平衡流動場においてアミノロイドβが細胞膜にどのように吸着し、細胞膜を壊すのか、その様子を映し出した蛍光顕微鏡の画像。

ニューサイエンス社からの依頼で執筆した論文が掲載された月刊「細胞」

飯田さんの学会での発表に注目したニューサイエンス社からの依頼で執筆した論文が掲載された月刊「細胞」。本誌はノーベル賞を受賞した本庶佑氏が編集顧問を務める学術雑誌。

学会での受賞ラッシュに加えて
学内表彰や学術誌に論文掲載も。

 飯田さんが発症メカニズムの解明を目指すアルツハイマー病とは、脳細胞表面にアミロイドβ(Aβ)タンパク質が凝集・蓄積し、記憶障害や知能の低下が生じる認知症の一種。根本的な機構が解明されていないため、治療が困難となっている。そこで、Aβが細胞膜にどのように吸着し、細胞膜を壊すのかを生体内を模倣した非平衡流動場において蛍光顕微鏡等を使って観察し、Aβの凝縮メカニズムを提案した。この研究は、第9回CSJ科学フェスタ2019において「優秀ポスター発表賞」を受賞したほか、第29回非線形反応と協同現象研究会藤枝賞、第58回日本生物物理学会では学生発表賞、第71回コロイドおよび界面化学討論会においてオンライン学生講演賞など、数々の賞を受賞している。研究内容はもちろんのこと、並河先生指導のもと磨いたプレゼンテーション能力の高さも、受賞の要因になったに違いない。
 これらの活躍が学内でも注目を集め、2019年度校友会大学院学生表彰を受け、受賞者代表として喜びや感謝の言葉を述べた。さらに、同研究内容を視点やアプローチを変えて様々な分野の学会で発表したところ、注目度が高まり、学術雑誌「細胞」からの依頼で、並河先生との共著として論文を掲載するという希少な経験にも恵まれ、大きな自信になった。

ポスター発表を行なっている飯田さん

2018年の日本化学会東北支部においてポスター発表を行なっている飯田さん。当時はまだ学部生ながら、並河先生仕込みのプレゼンテーション力で堂々と発表している。

第71回コロイドおよび界面化学討論会にてオンライン学生講演賞を受賞

第71回コロイドおよび界面化学討論会にてオンライン学生講演賞を受賞。「脂質膜へのアミロイドβ吸着に対する非平衡流動効果の単分子観察」の研究成果が高く評価された。

多方面での活動、旺盛な知識欲
将来有望なグローバルリーダー。

 非常に研究熱心な飯田さんではあるが、勉強一筋というタイプではない。大学のサイエンスアカデミーでは小中学生に科学の楽しさを伝え、ボランティアサークルでは山形大花火大会や日本一の芋煮会フェスティバルに参加し、理学部学生会の代表を務め、塾やパン屋でのアルバイトも経験。なかでも塾の講師は、もともと教えることが好きな上、即答力が身につくという理由から、大学入学以来6年間ずっと続けている。さらに、心理学検定や危険物取扱者の資格に加えて高校理科の専修免許を取得するなど、多方面の知識吸収にも余念がない。「すべて何らかの形で自分の将来に役立つと思うし、楽しいと思ってやっているので、全く苦になりません」と余裕の笑顔。
 フレックス大学院のプログラムで1年目は筑波の国立研究所で2カ月間、細胞レベルでの研究を体験することができた。博士課程進学後は海外でのインターンシップが予定されており、新型コロナウイルス感染症の状況次第ではあるが、アルツハイマー病の研究が進んでいるヨーロッパへの留学を希望している。自らの研究を、将来的には創薬へ橋渡ししたいと願う飯田さんは、医学や薬学の知識も必要だと考えている。すぐには結果が出にくい理学の世界で、間接的ではあってもより多くの人を幸せにする手助けになればと、今後も研究に励むとともにグローバルリーダーとしての成長も目指している。

いいだあかね

いいだあかね●栃木県出身。大学院理工学研究科(理学系)2年、フレックス大学院1年。理学の視点からアルツハイマー病の解明に挑む。学会や研究会で発表内容やプレゼンテーション能力が評価され、数々の賞を受賞。

※内容や所属等は2020年12月当時のものです。

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