まなぶひと #37

上端美菜&五十嵐絢音

諦めずつないだ、吹奏楽団の日々。
団員を力づけた全国大会出場の栄誉

2023.05.30

諦めずつないだ、吹奏楽団の日々。団員を力づけた全国大会出場の栄誉

 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、多くのサークルが活動の停滞・縮小を余儀なくされた。約150名の団員を擁する山形大学吹奏楽団は、学内外での演奏機会が激減。待望の舞台として団員たちの活動のモチベーションになっていた2022年の定期演奏会も、中止に追い込まれた。落ち込む団員たちを再び奮い立たせたのが、仲間のフルート三重奏による全国大会出場だったという。これまでの日々をどんな思いで過ごしてきたのか、2年次から吹奏楽団の団長を務めてきた上端美菜さん(3年)、全国大会出場メンバーのひとり五十嵐絢音さん(2年)に話を聞いた。

吹奏楽を始めた小学生のとき、さまざまな楽器を試して最もしっくりきたのがトロンボーンだったという上端さん。「トロンボーンは“人の声に近い楽器”。音色が柔らかくて優しいところが魅力だと思います」。

後輩の演奏が教えてくれた
「つながり」の大きさ。

 山形大学吹奏楽団の団長、上端美菜さんが吹奏楽を始めたのは小学5年のとき。小学校のクラブ、中学、高校の部活動、地元のジュニアオーケストラにも参加したが、吹奏楽は高校でやめるつもりだった、と打ち明ける。「コロナ禍で飛沫の心配もある吹奏楽の活動は、やりにくい。もういいかなって、思っていたんです」
 気持ちが変わるきっかけになったのは大学入学後の5月初旬、高校吹奏楽部の後輩たちがオンラインで開催した定期演奏会を視聴したことだった。「高校時代、コロナでコンクールがなくなり、演奏会もできなかったことが心残りでした。定期演奏会で後輩たちがサプライズで私たち卒業生の写真を投影した映像を流し、私たちと一緒に大会のために練習してきた曲も演奏してくれたんです。人とのつながりの大きさを感じてボロボロ泣いて『吹奏楽を、またやりたい』と思いました」
 大学の吹奏楽団に入団したものの、感染拡大の影響で入学式さえ中止される状況下での活動は、容易ではなかった。団員それぞれが体調管理と演奏時以外のマスク着用、換気を徹底するのはもちろん、検温記録が毎日義務づけられ、練習はアプリで体調を報告した上で参加。せっかく勝ち進んだ東北大会は県大会の映像を使った録画審査となって、努力し練習を重ね磨き上げた演奏を評価してもらうこともできなかった。
 最大の苦難を迎えたのは2022年12月。27日に定期演奏会を控える大切な時期にクラスターが発生し、2度の活動停止を余儀なくされた。前年の定期演奏会はライブ配信し、動画をアーカイブで視聴できるようにした無観客スタイルでの開催。観客を入れての演奏機会がほとんどなかった吹奏楽団にとって22年の定期演奏会は切望していた舞台だった。団内のアンケートでプログラムを決めて練習し、2、3年生を中心に「実行委員長」「ディレクター」「会計」など役割を分担。広報部がテレビ番組に出演して告知を進めるなど準備も着々と進んでいた。無観客での開催も考えたが総会も開けない状況下、ついに中止を決断。
 3年生主体の団内で、2年次から団長を務めてきた上端さんは「当時2年生だった自分が引っ張っていかなきゃいけないプレッシャーもあって、その上40回以上続いてきた歴史ある演奏会の歴史に穴を開けてしまった。お客さまの拍手を受けながらの舞台っていうのは、音楽とか吹奏楽の1番の楽しみ、いいところだと思うんです。久しぶりにできると思っていたのに、なかなかうまくいかなくて本当に悔しかった。暗い雰囲気になっていました」と振り返る。

山形大学吹奏楽団の団員たち。新入生を加えると、150名もの大所帯になる。「アットホームで、先輩後輩みんな仲がいい。すごくつながりが深いサークルだと思います」と上端さん。

三重奏で全国大会に出場
期待とプレッシャーが力に。

 楽団の空気を変えたのが「村山地区アンサンブルコンテスト」。出場予定だった団内3グループ中、2グループのメンバーが感染者や濃厚接触者になってしまい唯一、可能性を残していたのが五十嵐絢音さん(2年)、後藤仁希さん(同)、坂本結衣さん(同)によるフルート三重奏編成だった。
 しかしこの三重奏編成の出場も直前まで危ぶまれ、地区吹奏楽連盟や学内保健管理センターとも協議し、ようやくコンテスト参加が認められたのが前日の夜。「不安でしたが出られることが決まって、他の先輩方や出られなくなった人たちの分も頑張らないといけない、と思いました」と話すのは、メンバーのひとり五十嵐さん。
 団員たちの思いを背負っての出場はプレッシャーも大きかったが、2023年1月の「山形県アンサンブルコンテスト」、2月に開催された「第50回東北アンサンブルコンテスト」にも進出して金賞を受賞、見事全国大会出場を決めた。
「プレッシャーがなかったら、ここまで頑張れませんでした。全国大会は憧れの舞台。東北大会まで進んで結果発表で『金賞』と言われて皆ですごく喜んで。全国大会への代表団体発表で、自分たちのプログラムが呼ばれたときは本当に嬉しかったです。吹奏楽団の方々から大会前に『頑張って』、全国大会出場が決まってからも『おめでとう』と、たくさんメッセージをもらいました」と感謝する。「全国大会では、他の出場団体の迫力のある演奏も聴くことができました。その中に並んで自分たちが演奏できるっていうのは大変な名誉なこと。一生に何回経験できるかわからない、達成感がありました」と手応えを語る。
 三重奏編成の活躍にも刺激を受けて、山形大学吹奏楽団は3月に春のアンサンブルコンサートを開催。大いに盛り上がり、成功を収めた。

五十嵐さんがフルートを始めたのは、中学1年生のとき。「以前バイオリンをやっていて、音楽関係の部活動に入りたいと思って吹奏楽部を選びました。いろんな楽器を体験させてもらったときに『音が出た』のがフルートでした」。

2023年3月に静岡県アクトシティ浜松で開催された「第46回全日本アンサンブルコンテスト」に出場したフルート三重奏編成。アンサンブルの魅力は「コンクールそれぞれの音や表現を聞かせることができる面白さ。逆に言えば1人の責任、問われる技術が大きく、難しさもあります」と五十嵐さん。

異なる個性が生み出す一つの音楽
吹奏楽の魅力を、次世代に。

 「音楽の捉え方も考え方も学んできた内容もひとりひとり違う人たちが集まり、話し合い、一つの音楽を作り上げていくのが吹奏楽の難しさであり、面白さ。一つの表現にまとまって、演奏するのはとても楽しい」と五十嵐さん。
 団長の上端さんも「吹奏楽は人との出会いが、すごく大きい。全国的に見ても演奏人口が多く、各地でいろんなことを学んできた人、いろんな経験をしてきた人がこの山形に集まってこの大学で、一つの音楽を奏でることができる。20歳にして人生を語るのは浅はかかもしれませんが、吹奏楽団は『人生の幅が広がる』『いろんなことを学べる』場所だと思います」と強調する。「今後、この『人とのつながり』をもっと感じられるような取り組みができたらいいな、と思います」
 コロナ禍で音楽活動が制限されてきた中、吹奏楽や楽器を始める中学生が減っていることを危惧しているという五十嵐さん。「私たちが楽しく演奏することで、吹奏楽の魅力に気づいて『楽器を始めたい』と思ってくれる子供たちがまた増えるんじゃないかなって思っています」と期待する。
 コロナ禍に翻弄されながら前を向いてきた山形大学吹奏楽団。これからも地域や未来を担う子どもたちとの「つながり」を大切にしながら、自分たちの音楽を届け続ける。

2023年春の新入生歓迎演奏会の様子。山形大学吹奏楽団の活動は週4回、平日は2時間半程度、休日は3時間程度。個人、パートごとの練習を経て音楽練習室や体育館で合奏している。

かみはしみな

かみはしみな●人文社会科学部総合法律コース3年。青森県出身。吹奏楽団団長。卒業後は公務員を目指す。

いがらしあやね

いがらしあやね●地域教育文化学部地域教育文化学科児童教育コース2年。宮城県出身。卒業後は国語教員を目指す。

※内容や所属等は2023年4月当時のものです。

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