まなぶひと #49

齋藤吏乃&工藤留実子

科学の魅力を、子どもたちに発信!
未来の人材も育む学生ボランティア

2024.07.30

科学の魅力を、子どもたちに発信!未来の人材も育む学生ボランティア

 「山形大学SCITAセンター」が山形県内外で開く、科学実験教室が好評だ。実験や科学工作を楽しむ体験型プログラムを通して子どもたちの理学学習への興味・関心を高め、将来、科学技術分野を担う人材の育成も目指している。学生スタッフの齋藤吏乃さん、工藤留実子さんが活動のやりがいや苦労を教えてくれた。

 

山形大学SCITAセンターの学生スタッフによる科学実験教室の様子。教室の会場は、産業科学館や図書館、公民館のような公共施設、プロスポーツの試合会場、商業施設といった山形県のみならず、仙台市など宮城県にも及ぶ。東日本大震災の被災地復興支援を契機に宮城県石巻市、同亘理町の子どもたち向けのサイエンスショーも継続している。

子どもたちの笑顔が活動の原動力、
コミュニケーション力も日々向上。

 「山形大学SCITAセンター」の科学実験教室は、学生スタッフが企画・運営する主催イベントの他、自治体や団体から出演依頼を受けて出張するプログラムなど、多岐にわたる。
 「『楽しかった』と言ってもらえるのが、一番嬉しいですね。完成した科学工作を見せてくれる子もいて、可愛いし『やってよかった』と思います」とやりがいを語るのは学生スタッフの1人で人文社会科学部3年・齋藤吏乃さん。教室を通して子供たちの想像力や発想力に驚かされる場面も多く「新しい視点に、私たち学生の方が『なるほど』と気づくこともあります」と話す。
 理学部4年・工藤留実子さんも「きょうだいで遊びに来て、最初は『難しい』『興味がない』と参加していなかった下の子が、上の子が楽しそうにやっているのを見て『自分もやりたい』と興味を持ってくれたり、アンケートに『楽しかった』と頑張って作品の絵を描いてくれたりすると、あったかい気持ちになります」と手応えを感じているようだ。
 「人との関わりはもともと嫌いではありませんでしたが、私にはきょうだいがいないため、最初のうちは幼稚園や小学低学年の小さい子と、どう関われば良いのだろうという戸惑いもありました。以前は難しいことを難しいまま人にも伝えてしまっていましたが、活動を通して『どういう言い方をすれば子どもたちにも理解してもらいやすいだろう』と言葉を選ぶようになるなど、この3年間で自分自身の成長の手応えも感じています」と工藤さん。

山形大学SCITAセンターの科学実験教室には、来場した大勢の子どもたちの前で学生スタッフがスライドなどを使って説明する「授業形式」、1〜3人の少人数に分かれたブースごとに学生スタッフがついて対面で説明する「ブース形式」などのスタイルがあり、会場の状況や主催者の要望などに合わせた形式で実施している。

理数系が苦手でも楽しめるプログラム
実験を通して、理解と興味が深まる。

 科学実験教室を手がけるスタッフは理系学生だけではない。実は、文系学生も活躍している。
 もともと子どもが好きで、ボランティア活動に興味があったという齋藤さんは、グローバル・スタディーズコースで語学を学ぶ3年生だ。「私自身が理数系は今でも苦手。科学実験教室の前は学生スタッフがそれぞれ『予備実験』で体験してプログラムの危険箇所を確認し、子どもたちから出る質問内容を想定しながら説明の仕方を考えます。このとき、他のスタッフから基礎の基礎まで細かく説明してもらって、まず私自身が原理もきちんと理解するようにしています」と打ち明ける。「自分自身が分からない」からこそ、実験に参加する子どもたちが抱く疑問や質問も予想しやすい、と言い「自分の知らないことを知るのは面白く、自分の手で実験することで、身に付きやすいと感じています。私も、こうした実験教室を夏休みの自由研究前など、子どもの頃に経験していたら興味がわいて志望先や進路も変わったかもしれません」と齋藤さん。
 学部を越えた学生同士スタッフの交流を通じて得られる刺激や発見も大きいという。

山形大学SCITAセンターの学生スタッフが考案、ブラッシュアップを重ねながら作り上げてきた実験や科学工作の内容は「偏光板万華鏡」から「3Dめがね」「しゅわしゅわ芳香剤」「プラ板ストラップ」「ウォーターフラワー」までバリエーション豊か。来場者の年齢層やイベントの形式などに合わせたプログラムを提案している。

「どのプログラムも楽しいですが、スライム作りは子どもたちに人気があります。初めて手がけた実験でもあり、私自身も気に入っています」と齋藤さん。「山形大学SCITAセンター学生ボランティアは将来、サークル化することが決まっていて運営方法が変わり、資金的なやり繰りなども大変になると思いますが、これからも活動が続けていくことを願っています」と後輩たちにエールを送る。

行政機関、主催団体らと直接交渉
運営の経験が学生自身の成長の糧に。

 科学実験教室を安全に成功に導くための裏方業務も、学生スタッフの重要な仕事の一つだ。
 3年にわたる活動の中で、工藤さんの印象に残っているのが2021年9月、山形大学SCITAセンターがイオンモール天童で主催した「SCITA秋の科学実験まつり」の開催だという。コロナ禍で多くの催しが中止になる中、上級生とともに初めて作り上げた大きなイベントでもあり「学生が主催し、自分たちで行政に申請して助成を受け、これだけの規模のイベントを開くことができる。大学生ってすごいな、格好いいなと感じました」と工藤さん。
 2022年10月には、初めての出展となる「南部公民館まつり」にも参加。当時学生スタッフの代表を務めていた工藤さんは主催者との調整、交渉の窓口も担った。「主催の方もわれわれへの依頼は初めてで、私自身も前任学生からの引き継ぎがうまくいかず、スムーズにいかない場面もありました。直接足を運んで会場の環境も確認しながら学生スタッフの配置や体験時間を決定し、手探りで準備を進めました。子どもたちに実験の魅力を伝えるというおもてに見えることとは別に、おもてに出ない裏方業務、運営の部分で学んだことが多かったと感じています」と振り返る。
 普段の学生生活ではできない貴重な経験の中で子どもたちや自治体、企業関係者など幅広い世代、異なるバックグラウンドの人たちと交流し、自分の視野を広げられるのも「山形大学SCITAセンター」の活動の魅力のようだ。

「山形大学SCITAセンターができて約15年。ちっちゃいころ、この実験を体験してくれた子たちも今、大学生くらいになっていると思います。イベント『参加者』側だった子が、今後『運営』側としてわれわれの仲間になってくれたら嬉しいです」と工藤さん。

さいとうりの

さいとうりの●人文社会科学部3年。外国語を学ぼうと山形大学に入学、グローバル・スタディーズコースでフランス語を選択し多文化比較などを学んでいる。山形大学主催の新入生向けイベントをきっかけにSCITAセンターの活動を知り、学生スタッフとして1年次から活動している。

くどうるみこ

くどうるみこ●理学部4年、田村康研究室でミトコンドリアについて研究している。卒業後は大学院進学を予定している。高校時代に学内イベントに参加、センターの代表を務める栗山恭直教授の教育観にも共感したことが学生ボランティア参加のきっかけになった。

※内容や所属等は2024年6月当時のものです。

他の記事も読む