まなぶひと #51

松井友哉

第52代模擬裁判実行委員会委員長。
歴史ある裁判劇の成功を誓う。

2024.11.29

第52代模擬裁判実行委員会委員長。歴史ある裁判劇の成功を誓う。

 模擬裁判実行委員会、通称「もぎさい」は人文社会科学部の学生が中心になって活動している研究団体。当団体は、かつて人文学部(現人文社会科学部)に法律学科がなかった頃、「法律を学びたい」という思いを抱いていた学生たちが、法律学科を立ち上げるための布石として模擬裁判実行委員会を組織したことが始まりとされている。裁判劇「模擬裁判公演」は設立以来、半世紀以上続く。2024年12月6日・7日には第52回公演を山形市内で開催。第52代実行委員長として同会を牽引する松井友哉さんは「メンバーが一致団結し、先輩方から受け継いできた公演を成功させます」と意気込む。

第52回公演のテーマは「特殊詐欺」。
幅広い世代に来場を呼び掛ける。

 12月恒例の摸擬裁判公演は、もぎさいにとって最も大切な活動の一つ。本学の学生に限らず、一般も観覧できる。演劇を通して、幅広い世代に日本の社会問題や法律、裁判に関心を持ってもらおうと取り組んでいる。
 テーマは近年の社会問題を踏まえ、委員会のメンバーがその年ごとに選定。2024年は12月6日(18:00開演)・7日(14:00開演)に「謀りて〜 一本の電話〜」をテーマに、山形市の山形テルサで行う。
 松井さんは「第52回公演は日本で多発している特殊詐欺を題材にします。高齢化が進んでいる現代、狙われやすい一人暮らしの高齢者はもちろん、その家族や周りの方にも注意喚起できる内容を目指しています。特殊詐欺の類型、いわゆる手口はたくさんあり、分かりやすくお伝えできるように脚本部門が考えています」と説明する。

2023年に開催した第51回公演の様子。男性性犯罪被害を題材にした裁判劇が好評を博した。第52回公演も同じ会場となる、山形テルサのホールで実施する。

 テーマが確定したのは本番約半年前の5月。公演前までにやるべきことはたくさんある。劇のシナリオは2、3年生メンバー15人で分担。裁判所や検察などに添削を依頼し、専門家の意見を反映させて完成させる。
 キャストもメンバーが務める。専門的な言葉が多く、公演約2時間分の膨大なセリフを憶えなくてはならない。もちろん演技の経験がないメンバーもいるため、キャストは稽古に集中する。他のメンバーでパンフレット作成、小道具や舞台といった美術などを分担。公演当日はメイク、受け付けなどの会場運営もある。
 資金集めも大切な役割で、来場者に配布するパンフレットの制作費などに充てる。パンフレットには公演で扱った題材を、幅広い世代が理解できるように集約。今回は詐欺の類型や、実際詐欺に遭った場合の相談先、刑事手続の流れなどを盛り込む予定だ。
 インターネットで情報を収集できる時代だが、紙のパンフレットを大切にしている。松井さんは「紙のパンフレットは手元に残るところが良いと思います。公演を見た後のフィードバックや、周囲の方への注意喚起に役立てていただきたいです」と話す。

定例会では学年や学部の枠を超えて意見交換。第52回公演の題材に、度が過ぎた推し活の「推し依存」も挙がったが、「対象が狭い」といった意見も寄せられ見送った。

 松井さんは「特殊詐欺の裁判劇というとシーンの変化が少なく、専門用語ばかりでセリフが多く難しいイメージがあるかもしれません。詐欺をした人が逮捕されて完結するという、よくある展開とも思われがちですが、それらの部分は工夫していますのでお楽しみに。子どもや年配の方が見ても分かりやすく、裁判に興味を持ってもらえる公演を目指しています」と気合十分だ。
 チケットは前売400円、当日500円。高校生以下は無料。問い合わせは公式InstagramとX(mogisai52)のDM、HPから。

学内外、先輩、社会人とも交流。
人脈広がり、充実の日々。

 本学人文社会科学部の中島宏教授(憲法学)が顧問教員であるもぎさいは2024年に52代を迎えた、歴史ある学生研究団体。 2016年度、2017年度山形大学学生表彰、2021年度YU-SDGs Award 優秀賞、2022年度山形県輝く県民活躍大賞、2023年度YU-SDGs Award 特別賞と数多くの賞を受賞している。
 メンバーの学部は問わず、現在は人文社会科学部を中心に他学部の学生も在籍し、約90人で活動している。サークルや部活動との掛け持ちや、アルバイトをしているメンバーも多い。
 松井さんは先輩とのつながりをつくりたいと1年生の時に加入した。出身高校が同じ友人が、先に入っていたのも理由の一つだったという。
 もぎさいの一員になり、委員長に抜擢され「他の学部の学生と交流でき、歴代の委員長をはじめとした先輩、学外の方と関わる機会が増えました。人脈が広がって楽しいです」と充実の表情を見せる。
 もぎさいの活動は摸擬裁判公演以外にもある。定例会の他、新入生歓迎会やスポーツ大会などを実施。東北大学法学部模擬裁判実行委員会との交流会もあり、2024年はバーベキューや芋煮会を楽しみながら情報交換した。交流会が縁で、松井さんは2023年に東北大学による裁判劇の公演を見学。「東北大学は専門の知識を持つ法学部の学生だけで構成されているので、勉強になることが多く面白かったです」と刺激を受けたようだ。
 本学のもぎさいはサークルでもない部活でもない、学生研究団体という特殊な立ち位置。委員長として「歴代の先輩が受け継いできたことを、自分の代で途絶えさせないようにします」と誓う。

小白川キャンパスがある山形市内の河川敷で芋煮会を開き、東北大生と交流。天気に恵まれたこの日は、山形ならではの醤油味の芋煮を堪能し、メンバー間の親睦を深めた。

将来の夢は「公務員」から
「検察事務官」に具体化。

 宮城県仙台市出身の松井さんは、本学に推薦で合格。高校生の時、将来の職業に公務員を考え、人文社会科学部人文社会科学科総合法律コースを希望した。4歳上の兄が本学の地域教育文化学部だったことと、仙台の実家から通学可能な距離も魅力だったという。
 実際に入学して「人文社会科学科は5つのコースがありますが、コースの枠を超えた学びができるところが良くもあり、逆に大変な部分でもあります」と打ち明ける。1年生からさまざまな講義を受け「自分の中で学びたいこと、やりたいことが徐々に洗練されていると思います。興味のある分野を明確にできています」とも語る。

人文社会科学部の拠点は小白川キャンパス。JR仙台駅前から高速バスを利用して通学している松井さんは、講義と講義の空き時間などにキャンパス内で自主学習に励んでいる。

 目指す公務員の職種も、より具体的になった。
 「高校生の時は漠然と公務員になりたいと思っていましたが、今は検察事務官の仕事に魅力を感じています。もぎさいの公演の準備のため、現役の公務員と関わらせていただく機会が増え、仕事内容を知ることができました。もぎさいの活動は、将来の職業を考える機会にもなっています」
 本学を目指す後輩には「高校までに比べ、大学は自らの意思で道を切り開く機会が増えます。希望する授業を受けられ、サークルや部活動といった活動は自由。自分の場合はもぎさいに入って良かったことばかり。人間関係を形成する力を養えていると実感しています。幅広い学びが可能なところは、山形大学の魅力の一つ。まだ学びたいことが明確になっていないなら、将来の道を探すために山形大学を受験するのも一つの方法だと思います」とアドバイスを送る。

第51回公演での記念撮影。無事成功し、メンバーは清々しい表情だ。松井さんは1年生の時から公演の受け付けを担当し、3年生の今年は委員長として統括的な役割を担う。

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まついともや

まついともや●宮城県仙台市出身。人文社会科学部人文社会科学科総合法律コース3年。第52代模擬裁判実行委員会委員長。大学卒業後は就職を希望し、検察事務官を目指している。

※内容や所属等は2024年7月当時のものです。

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