まなぶひと #50

アブバカール・アブドゥルカディア・ジェラニ

農業の知識や技術を学び、
ナイジェリアと日本の懸け橋役に。

2024.08.15

農業の知識や技術を学び、ナイジェリアと日本の懸け橋役に。

 ナイジェリアからの留学生ジェラニさんは母国で農学の学士号を取得し、社会人経験を経て来日。本学大学院農学研究科の研究生となり、入学試験に合格後の20234月から大学院生として学んでいる。現在、修士2年生。研究生時代から茄子川恒(ひさし)研究室で米の品種や栽培方法、流通などの理解を深め、母国の食料安全保障の改善に貢献したいと考えている。キャンパスがある鶴岡市での生活も満喫し、充実の日々を送る。

母国でオクラを研究。
社会人経験を経て留学。

 ジェラニさんはナイジェリアのイロリン大学で農学を専攻し、土壌の栄養、特に肥料がオクラに与える影響について研究した。オクラはアフリカ東北部の原産とされ、ナイジェリアで親しまれている食材の一つ。「ポピュラーな料理はオクラスープ。日本人が味噌汁を飲むように、ナイジェリア人はオクラスープを味わいます」と説明する。
 2010 年に農学の学士号を取得。卒業後は母国の情報サービスプロバイダー企業に就職し、管理職を務めた。その後、公的標準化機関であるナイジェリア標準化機構の職員として国家食品や食品規格の窓口を担い、食品の開発や品質、健康との関連性、製造工場の検査などに従事。国際審議委員会の秘書、カカオに関する全国ミラー委員会の技術秘書もした。さらに、品質、食品安全、環境、ハラール食品管理システムの主任監査員およびトレーナーとして活躍。国際標準化機構(ISO、ジュネーブ)とアフリカ標準化機構(ARSO)の持続可能で追跡可能なカカオの技術専門家など、さまざまな仕事に就いた。
 大学での研究や仕事の経験から、母国の食を取り巻く環境を改善したいと2022 年 9 月に来日。JICA(国際協力機構)長期研修員として、同年10月から本学大学院農学研究科の茄子川恒研究室に研究生として在籍することになった。

「山形大学の研究室は設備が充実しています。寒暖差のある地域ですがキャンパス内は常に快適。私が訪れた日本の他の大学と比較しても、山形大学での生活はとても快適です」とにっこり。

 茄子川研究室の専門は水稲。母国の主食はイモ類で、大学時代はオクラを研究していたジェラニさんにとって馴染みの薄い作物だったが、本学で学び「勉強になることばかり。山形県は年間を通して気温の変化があり、冬は多くの雪が降る厳しい自然環境。それでも効率的に安定して米やさまざまな作物を栽培している点に興味が湧きました」と研究の継続を熱望。
 筆記と口頭の入学試験を経て、2023年4月に本学修士課程の大学院生として、茄子川研究室で引き続き学ぶことになった。

本学の敷地に降り積もる雪を見て大興奮。うれしさのあまり写真を撮ったという。「ナイジェリアは雨季と乾季しかなく、山形県と比べるとそれほど寒くも暑くもありません」と教えてくれた。

国際色豊かな研究室に在籍し、
本学の圃場で米を栽培。

 大学院修士2年生のジェラニさんは農学の修士号の取得を目指している。研究室には大学院生と学部生の計8人が在籍。2024年 3 月にはセネガル人留学生が卒業し、今いる留学生はジェラニさんだけだが、近々ガーナ人研究生が加わる国際色豊かな研究室だ。会話は英語と日本語。「時にはフランス語やアラビア語といった母国語以外の言語で、全員が新しいフレーズを学ぼうとしています」と言語の壁を感じずに学べている。
 研究室の仲間と本学の圃場で米を栽培。土作りから苗の準備、田植え、収穫までを体験し、「自然環境を考慮した栽培方法や工夫は、母国でも生かせることが多い」と日本の農業技術に感心しきり。

本学の圃場で研究室の仲間と米の生育状況を確認。ジャガイモやトウモロコシの栽培にも挑戦したが「あまり成果は得られませんでした」と、今は米の研究に集中している。

田植えを体験。「日本は水を上手に活用して良質の米を栽培しています。ナイジェリアは1年に2回も3回も収穫の機会がありますが、安定して生産できていません」と母国の状況を明かす。

 はえぬきやササニシキといった日本の品種に加え、アフリカの品種も栽培。ナイジェリアの気候や土地に適した品種を模索している。
 「セネガルはアフリカでは珍しい米が主食の国。アフリカの米が日本の技術でどのように育つか検証し、ナイジェリアで高品質な米を栽培できれば。ナイジェリアではあまり米は食べませんが、ジョロフライスというアフリカの米料理は人気。ピラフに似ていておいしいです」
 ナイジェリアでは洪水や鉄砲水(山地や中山間地の小流域などで発生する急激な出水や増水)による作物被害が発生している。「母国の食料安全保障の強化に貢献したい。作物の栽培だけでなく、原料の調達から消費者の手元に届くまでを最適化できれば」と研究に励む。

土壌中の成分を測定しているジェラニさん。「山形大学での研究を生かし、ナイジェリアの食の環境を良くしたい。米の研究は他の作物に生かせることが多いです」と言う。

研究用に選定した種もみ。日本の品種の他、アフリカの品種も鶴岡で栽培し、生育状況を調べている。「日本の米を初めて食べ、独特の粘りに驚きました。アフリカの米はドライな食感です」。

交流の輪広げ、鶴岡暮らし満喫。
留学生の支援にも尽力。

 2022年からキャンパスがある鶴岡市で生活。「緑の山々と、少しずつ収穫された黄金色の田んぼを見て、自然が身近な場所だと思いました」と印象を話す。
 「鶴岡桜まつりでは美しい桜に感激しました。露店が面白かったです。鶴岡天神祭や荘内大祭夜音祭へも行きました。大学で山菜採り、市内でアイススケートに挑戦しました」とプライベートも満喫している。
 イスラム教徒でもあるジェラニさんは食事面に不安を抱えて来日したが「その心配は1週間でなくなりました」と笑顔を見せる。鶴岡市内でイスラム教の教えに基づくハラール認定食材を購入できる店や、ハラールフードが味わえる飲食店を見つけたからだ。

本学の留学生に限らず、さまざまな国籍の友人がいるジェラニさん。鶴岡市加茂方面へ釣りに行った際に撮影。「鶴岡は自然が身近にある、すばらしい町ですね。魅力的な人も多いです」。

釣った魚はさばいて調理。イスラム教徒のジェラニさんは肉類の制限はあるが、魚介類は大抵味わえ、鶴岡の海の幸を堪能している。「大学の食堂にもハラールフードがあります」と明るい表情。

 「日本人学生も留学生も、多くの友だちができました」と人脈を広げているジェラニさん。他の留学生も自分のように、のびのびと生活してもらいたいと願い、留学生をサポートする任意団体「山形アフリカアソシエーション」を立ち上げた。在学中はもちろん、卒業後に他大学へ進学した留学生の相談にも乗る。
 「大学生活、住まい、卒業後の進路や就職先など、さまざまな不安の解消に役に立てれば。孤立しないように、イベントや交流会の情報も共有しています」と説明する。
 将来はナイジェリアと日本の懸け橋役を担うのが夢。
 「日本は飽食の国。一方でナイジェリアは多くの課題に直面していますが、多くの可能性を秘めています。食糧問題や気候変動、不平等など、悪化する課題の解決策を提案したいです」

つづきを読む

アブバカール・アブドゥルカディア・ジェラニ

あぶばかーる・あぶどぅるかでぃあ・じぇらに●ナイジェリア出身。大学院農学研究科農学専攻(生物生産学領域)2年。母国の食料安全保障の強化に貢献したいと来日。留学生のサポートにも尽力している。

※内容や所属等は2024年5月当時のものです。

他の記事も読む