まなぶひと #44

河野 凜々安

健康志向の「発酵あん」を開発。
論文出版の偉業を成し遂げる。

2024.03.15

健康志向の「発酵あん」を開発。論文出版の偉業を成し遂げる。

 栄養学専攻の短期大学から編入した本学農学部食料生命環境学科バイオサイエンスコース4年の河野凜々安さんは、永井毅研究室で「米麹を用いた発酵あんの開発」をテーマに研究。執筆した技術論文は投稿からわずか2カ月で「日本食品科学工学会誌」に受理され、2024年1月に出版された。同研究室に所属する学部生の論文が学会誌に掲載されたのは、快挙だ。

栄養系短大から編入。
限られた期間で研究に励む。

 2024年1月発行の「日本食品科学工学会誌」第71巻に掲載された技術論文「米麹を用いた発酵あんの開発とその物理化学的特性」は、河野さんが第一著者、永井教授が責任著者として発表した。院生ならまだしも、学部生である河野さんの論文が学会誌に掲載されたのは快挙。その吉報に「研究するからには実績を残したかったので、嬉しかったです。論文を投稿してから比較的早く掲載が決まり、安心しました」と喜ぶ。
 編入生でもある河野さんは他の学部生と比べて、卒業に必要な単位を短期間で修得しなければならない。そのような状況の中、講義と並行して研究に臨み、論文を執筆。3月に卒業を控えているが現在も研究を続け、その成果の第一著者論文(2報目)を投稿中だ。「卒業までに完成は難しいですが、データを取れるだけ取りたいです」と3報目投稿に向けて熱心に励んでいる。
 実は「和菓子より洋菓子が好き」という河野さん。どのような思いで和菓子と密接な小豆あんを研究テーマに選んだのだろうか。あんは一般的に豆類と砂糖を合わせて煮詰めたもので、小豆あんや白あん、ずんだあんなどがある。河野さんが着目した小豆あんは、饅頭や最中、羊羹、たい焼きなどにも使われ、日本人にとって最も身近なあんの一つ。
 「私を含め、若い世代はあんを使う和菓子より、チョコレートやケーキといった洋菓子を好む傾向にあります。ですが、あんを用いた和菓子は日本の大切な食文化。あんの中でも利用の機会が多い小豆あんの可能性を、さらに広げられれば」
 小豆あんは小豆に砂糖を加えて作るのが一般的。砂糖は小豆と同量使う場合もあり、河野さんは「低甘味志向の近年は消費が低迷しています」と指摘する。そこで思い付いたのが、砂糖の代わりに米麹で甘味を加えるあんの開発だ。
 鶴岡キャンパスがある庄内平野は、日本有数の穀倉地帯で米の産地。「山形ならではの材料を使い、伝統文化の継承にも貢献できる研究テーマを考えました」と説明する。

発酵あんは繰り返し調製し、その都度成分を計測して記録。「動物性食品より植物性食品が好まれている現代の嗜好の傾向からも、小豆を使った研究は面白いのではないかと思いました」と打ち明ける。

砂糖不使用の小豆あん。
米麹の力で自然な甘さに。

 研究は3年次後期から取りかかった。9種類の麹菌を用いて米麹を調製し、蒸煮してペースト状にした北海道産小豆「きたのおとめ」と混ぜ合わせ発酵させたあんを「発酵あん」と命名。成分や味わいを細かく記録し、分析を繰り返した。その結果、発酵あんには清酒用麹菌(特別吟醸用)が最も適していると判明。砂糖は一切加えていないが、甘酒のような華やかな香りとすっきりとした甘さが魅力の新たな小豆あんの開発に成功した。
 研究は苦労もあった。「米麹作りが大変でした。麹は生き物。湿度に左右され、管理に気を使います。米麹特有の臭いが強過ぎてしまったり、酸味や雑味が出てしまったり、最初にできたあんは正直食べられるものではありませんでした」と苦笑する。米麹はうるち米の他に、もち米でも試作。「発酵時間を変えたり、米麹と小豆の割合を変えたりして、おいしい味に仕上げるために何度も調製しました」と根気強く行った実験を振り返る。
 試行錯誤の末に、理想に近い食味に仕上がった発酵あんは、昨今の健康志向に対応した新たなあんといえる。「砂糖を使っていないので低カロリー。さらに麹菌の産生する『GABA』を豊富に含んでいます」と解説。GABAはアミノ酸の一種で、ストレスの緩和や睡眠の質を高める作用が期待できる。
 「発酵あんが実用化され、外国人に食べてもらう機会が生まれれば、麹を使う日本の食文化を知っていただくきっかけにもなります」とも話す。

9種類の麹菌を用いて米麹作りから挑戦。「永井先生が米麹を使った研究をされていたので、参考になりました。米麹は甘酒の原料でもあり、優しい甘味のあんを作ることができます」と河野さん。

学生主導の研究にやりがい。
研究室の仲間と切磋琢磨。

 河野さんは高校時代に「将来は食品に携わる仕事に就きたい」と思い、岐阜市立女子短期大学食物栄養学科へ進学。栄養士の資格を取得し、栄養士として働く道もあったが、「地域に根差す食品加工の研究がしたい」と、本学の永井研究室への所属を志望し編入した。
 「食品の開発や加工を専門としている研究室は全国的に少ない中、永井研究室は食品開発の実績を残しています。論文投稿に力を入れているところも魅力でした」
 研究室では実験で基本的な技術を習得。効率よく正確な実験を進めるため、周到な準備が不可欠だと痛感した。麹という生き物を扱い、予定通りに実験が進まないことがある中、臨機応変な対応力も磨いた。インターネットで手軽に情報を収集できる時代だが、現地調査の大切さも実感。今回の研究テーマを探す際は、農学部のキャンパスがある鶴岡市内の農産物直売所などを訪問して調査した。売り場に並んでいた地元住民による手作り菓子は研究テーマ選びのヒントになったという。
 「直売所では小豆あんを使ったさまざまなお菓子が販売されていました。鶴岡は冬に水ようかんを食べる風習があります。岐阜県出身の私にとっては驚きの食文化。水ようかんは夏に食べるものというイメージがあったので」
 研究室には河野さん含め3人の学生が在籍し、それぞれ異なる研究に取り組んでいる。熊の肉から醤油を開発している学生もいる。「皆それぞれ、面白いことに挑戦しているので、刺激を受けています」と笑顔を見せる。

永井研究室に所属する学部生と一緒に。河野さん(写真右)は「永井先生は学生一人一人の希望を尊重し、学生主導で研究を進められるようにして下さり、やりがいがあります」とにっこり。

 本学への入学を希望する後輩には「視野を広く持ち、自分がやりたいことを見つけるのが一番大事。目的が明確なほど大学の勉強も自然と頑張れ、将来の夢の実現のための励みにもなります」とアドバイスする。
 本学卒業後は筑波大学大学院へ進学し、食品の開発や加工に関する知識、技術を一層深める。将来は食品メーカーへの就職を希望している。
 「永井先生のもとで研究させていただいた経験と、筑波大学大学院での研究を生かして、食品開発の仕事に携わりたいです」

短大時代は栄養学が専攻で、植物や微生物については本学で初めて学んだ。河野さんは「微生物は難しさもありましたが、食品に関わることが多く面白さがありました」と充実の表情。

こうのりりあ

こうのりりあ●岐阜県各務原市出身。農学部食料生命環境学科バイオサイエンスコース4年。岐阜市立女子短期大学から編入。「発酵あん」を開発し、研究成果を執筆した論文が「日本食品科学工学会誌」に掲載された。卒業後は筑波大学大学院に進学し、食品加工の研究を深める。

※内容や所属等は2024年2月当時のものです。

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