まなぶひと #29
ポルトカレロ・イレイ・アントニオ・ホセ
環境で選んだ留学先は山形、
母国で素粒子論の先生を目指す。
2021.08.30
まなぶひと #29
ポルトカレロ・イレイ・アントニオ・ホセ
2021.08.30
ペルーからの留学生アントニオさんは、母国の大学4年次に本学理学部に短期留学し、山形の環境がとても気に入ったため、大学院生として本格的に留学をしている。現在、修士2年として新井真人教授のもとで素粒子論を勉強中。帰国後は素粒子論の研究を継続しながら大学で教えることを目標にしている。コロナ禍で学生同士の議論ができず残念だが、教授と1対1の緊張感ある授業で大いに鍛えられている。
ペルーのラ・モリーナ大学の学生だったアントニオさんは、数ある協定校の中から本学を選び、理学部で半年間の短期留学を経験した。大学では土木工学系を専攻していたにもかかわらず、留学先に理学部を選んだ理由は、以前から物理学にも興味があり、独学で勉強をしていたからだという。ペルーの学友の多くが大都市圏の大学を希望して留学するなか、首都リマ出身のアントニオさんは、都会よりもむしろ自然豊かでのどかな地方都市が良い、と勉強に集中できる本学の環境を選んだ。
物理学の中でも特に素粒子論への関心が高く、素粒子物理学が専門の新井先生、衛藤先生の研究室で学んだ。ペルーでは、素粒子論に関する研究はあまり盛んではないため、素粒子論を学ぶ学生も少ないのに対して、本学理学部では素粒子物理学を学ぶ学生が多いことに驚き、半年という短期間ではあったが、学友と議論を戦わせるなど充実した留学生活を過ごした。ラ・モリーナ大学に似た自然環境、新井先生や衛藤先生との出会い、友人たちと楽しんだキャンパスライフ、それらの手応えもあって、アントニオさんは本格的に素粒子論を学ぶために本学の修士課程に進学。今は、数学的知識を深めるとともに様々な研究論文の理解に努めている。
素粒子物理学の中でも、素粒子論は実験などは行わない理論系で、アントニオさんに言わせれば「紙と鉛筆があればできる研究」。ひたすら考えては数式を書き、数式を書いては考える。学生同士で議論し、高め合う。先生の前で自分が理解していることを発表し、理解できていない部分を教えてもらうといった勉強スタイル。残念ながら、コロナ禍で同じゼミの学生は減ってしまい、さらにリモートでの授業が増えてアントニオさんが魅力に感じていた学生同士での白熱した議論の機会も無くなってしまった。新井先生と1対1での授業を週2回のペースで受けており、先生から出される高度な課題にまだまだ学ぶことがたくさんあると痛感させられる日々のようだ。
素粒子論を学ぶ上での重要なメソッドは議論だが、アントニオさんは日本語を流暢に話すことができる。実は、アントニオさんは小学生から中学1年生までを静岡県で過ごしている。長いブランクがありながらも片言ではなく、敬語の使い分けも的確。母国語であるスペイン語はもちろん、論文や資料を読む上では必須の英語にも堪能。ペルーの大学には、どんなに成績が良くても外国語が話せないと卒業できないという厳しいルールがあり、それが語学力を高めているようだ。
短期留学で訪れた際には、本学学生と友達になって一緒にいろいろなところへ出かけたり、高校時代に経験していたバスケットボールで遊んだり、文化交流をしたり、楽しい思い出がたくさんできた。コロナ禍でそれらができない今、自宅アパートと大学を行き来する日々のアントニオさんにとって唯一のリフレッシュは散歩。また、街で出会った人に「お国はどちら?」「日本語、上手ね」などと声をかけられることもあり、そんな会話に心が和むこともあるそうだ。
修士2年もほぼ半分が過ぎ、今後の進路が気になり始める頃。素粒子論は、とにかく学ぶべきことが多過ぎて、博士課程に進む人がほとんど。アントニオさんは検討中ということだが、いずれにしろ、素粒子論を追究し、将来的には母国ペルーの大学で研究を継続しながら学生たちに教えることを目標にしている。ペルーでの素粒子論教育は、講義の受講と論文執筆がメインで、日本の大学のように議論を深める授業は行われていない。「ペルーで教えるチャンスがあれば、山形での経験を生かして議論を取り入れた授業を提案したい」と意欲をのぞかせる。アントニオさんの頑張りでペルーの素粒子論研究が加速し、山形大との共同研究が実現する日が来るかもしれない。さまざまな期待や可能性に胸が膨らむ。
ぽるとかれろ・いれい・あんとにお・ほせ●大学院理工学研究科前期(理学系)理学専攻2年。ペルー出身。素粒子物理学の研究者を目指して留学。小・中学生時代を静岡県で過ごし、日本語が流暢でとてもフレンドリー。
※内容や所属等は2021年8月当時のものです。