まなぶひと #42

色川岳宏

挑戦が繋いだ幾多の出会い
競技と研究の二刀流で世界へ。

2023.11.15

挑戦が繋いだ幾多の出会い競技と研究の二刀流で世界へ。

 山形大学大学院有機材料システム研究科で、リチウムイオン電池の研究に取り組む大学院1年の色川岳宏さんは、自転車ロードレースからクロスカントリー、トライアスロン、トライアスロンのオフロード版競技「XTERRA(エクステラ)」まで、年間15~20ものレースに出場。大学院生とアスリートの二刀流に挑んでいる。自ら選手として競技するだけでなく、マウンテンバイクのスクールを主宰したり、パラトライアスロン選手をサポートしたりと、活躍の場は大きく広がっている。

初レースで優勝の快挙
パラ競技への協力が転機に。

 小学校3年からスイミングクラブの選手育成コースに属し、中学・高校時代は競泳に熱中していたという色川さん。大学合格を機に、新しいことに挑戦しようと「オフロード」と呼ばれる舗装されていない悪路や、こう配のある山道を走る自転車レースであるクロスカントリーオリンピック(XCO)という競技の練習を始めた。
 初めて参加した国内公式戦でいきなり優勝するなど頭角を現し、大学3年次からは舗装路でのロードレースにも参戦。メーカーサポートのある外部チームに所属し、各地の大会に出場している。
  「自然の中で競技できるのが、オフロードの好きなポイント。最大時速70〜80キロものスピードが出せるロードレースは、風を感じながら走ることができます。どちらも自然を感じられるのが魅力です」と色川さんは話す。

(左)シーズン初戦のレースとして、2023年4月に兵庫県で行われたCoupe du Japon Shobudani Stageというクロスカントリーのレースに出場した色川さん(右)2022年に4日間にわたり長野から東京までの区間で行われたステージレースの 3日目相模原ステージ。「大雨の中で行われ、ハードな消耗戦になりました」と色川さん

 以前から繋がりのあったパラトライアスロンのナショナルチーム関係者に誘われ、2023年の春からは障害のある選手のトレーニングパートナーとしての活動も始めた。「ガイド」と呼ばれる併走者としても障害のある選手をサポートするうちに水泳、自転車、長距離走の3種目を連続で行うトライアスロン競技に魅せられ、自身も選手として大会に出場するように。大学入学以降、水泳からは離れていた色川さんだったが、初出場のレースで初優勝の快挙。「トライアスロンは、泳げないと勝負に絡めない。過去に競泳をやっていてよかったな、と思いました」と振り返る。
 もともと宮城県出身の色川さんだが、今や山形県は第二の故郷。2023年10月には、トライアスロン競技の山形代表として「燃ゆる感動かごしま国体」に出場を果たした。「これまで多くの方々に活動を支えていただいた山形には、地元仙台と同じくらい『故郷』という感覚があります。これからもっと良い成績を出して恩返ししたい」と力を込める。
 自転車、トライアスロンの選手として自ら競技する一方、パラトライアスロンへの思い入れも強い。「スタッフ陣には国内トップクラスのトライアスロンの現役選手もいて、選手たちも体のどこかに不自由がある中で競技と向き合い、メダリストにもなったような方々。競技だけでなく人間性の面でも刺激をいただける。経験したくてもできない貴重な体験ができるパラのガイドを、これからも続けていきたいと思っています」

2023年9月に香川県観音寺市で行われた「日本学生トライアスロン選手権大会」

2024年は国際大会に挑戦
後進の育成にも意欲。

 トライアスロンとほぼ同時に、山中など不整地でのマウンテンバイクとトレイルランニング、川や湖、海といった自然の中で水泳を行う複合競技「XTERRA」への挑戦も始めた。「もともと山が好きなので、競技として僕に一番合っているのはXTERRAかなと思っています」といい、2024年に開かれるXTERRA世界選手権出場権も獲得。「コロナ禍でこれまで国際大会や海外遠征は避けてきましたが、これからはイタリアや台湾など国外のレースにも積極的に参加していきたい」と意気込む。
 2023年からは福島県猪苗代町のフィールドなど拠点に、主宰者の一人としてマウンテンバイクのスクールを企画・運営する。「自転車は、野球などの他の競技と比べるとまだマイナーなスポーツ。僕がいろいろなところで吸収してきたものを次の世代に伝え、『競技したい』と思ってくれるジュニアの世代を引き上げたい。大人の方にも、より安全に楽しく走っていただきたい、という思いがあります」

(左)2023年5月に岐阜県中津川市で行われたXTERRAのランパート。もともと山が好きだった色川さんにとって、標高1100m前後の大自然のフィールドを走ることができるのが魅力だという(右)「年齢に関わらずもっとたくさんの方に『マウンテンバイクに乗ってみたい』『レースに出てみたい』と思ってもらえるような場を作りたい」と開催している「MTBライディングスクール」

競技にも研究にも全力
自らのアクションで
世界は広がる。

 スポーツの世界で幅広く活躍する一方「選手生命は30歳前後ぐらい。競技の前線を退いても熱をそそげるような研究や仕事の分野も、今から頑張りたい」と、所属する髙橋⾠宏研究室でリチウムイオン電池の正極の性能向上などをテーマにした、企業との共同研究にも真摯に取り組む。「研究は常にやることがあって、競技のために長期で不在にすることも多く時間はカツカツですが、何とか両立できているのは、髙橋先生のおかげ。スポーツ活動にも理解いただいている髙橋先生には大変感謝しています」と、色川さん。
 全国各地で開かれる学会にも積極的に足を運び、2022年には大学発信型の国際会議「SmaSys2022」に発表者として参加。英語での論文発表を行った。
 「英語はもともと洋楽が好きなくらい。ペラペラというわけではありませんでしたが、今後の海外遠征などを考えたときに、ある程度使えないと駄目だという思いがありました。実際国際会議に参加してみると、聞き取りはある程度できても、思ったことを英語で伝えるのが難しかった。アウトプットの経路が全然できてないことを実感しました」と反省する。一方で「挑戦することで、うまくいかないことにも気付くことができる。アクションを起こすことが大切だと思います」と前向きだ。
 色川さんの幅広い活動の根底にあるのは「自分が関わった人に、いい影響を与えられるようにしたい」という思い。「もともと内向的ではありませんでしたが、自分のやりたいことを外に発信し、いろいろなことに挑戦することで生まれた繋がりは多いと感じています。時間が許す限り、これからもいろいろなことに挑戦していきたいと思っています」
 自らの可能性を広げ、成長してきた色川さんの挑戦はまだまだ続く。

研究室の仲間と過ごす貴重な時間。大学院修了後の将来は「まだ決めきれていません」という色川さんだがスクールの活動を通じ、人と人を繋ぐような仕事にも興味が湧いているという

大学入学時から大学院進学は視野に入れていたという色川さん。「外部の企業の方との共同研究なども経験できる学科。貴重な時間だと感じます」と話す。

いろかわたけひろ

いろかわ たけひろ●山形大学⼤学院有機材料システム研究科有機材料システム専攻博士前期課程1年。宮城県仙台市出身。自転車好きの家族の影響で川西町にあるマウンテンバイクのコースに子どもの頃からよく遊びに来ていたことから米沢キャンパスに親しみを感じ、また最先端のポリマー研究ができることに惹かれて高分子・有機材料工学科に入学。「PAXPROJECT」「Team Eurasia iRC-TIRE」所属。

※内容や所属等は2023年10月当時のものです。

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