まなぶひと #57
佐藤凪紗&鈴木沙英子&紺野瑠里
メンバーの“戸沢村愛”が結実。
そばの実使用のジェラートを製品化。
2025.07.15
まなぶひと #57
佐藤凪紗&鈴木沙英子&紺野瑠里
2025.07.15
本学の学生有志による「そばぁとfrom戸沢村」が山形県最上郡戸沢村産そばの実を用いたジェラート「柚子 & 七味入りそばぁと」を株式会社VEGEA(ベジア)の協力を得て考案し、2025年4月に数量限定で発売した。大学や地域との関わりを深める学生主体の魅力的な活動「学生チャレンジプロジェクト」に採択されたプランで、メンバーの3人は「製品開発は大変なこともありましたが、楽しさの方が大きかったです」と充実の表情で振り返る。
左から農学部食料生命環境学科アグリサイエンスコース2年の紺野瑠里さん、工学部建築・デザイン学科2年の佐藤凪紗さん、医学部医学科2年の鈴木沙英子さん。1年生の時に立ち上げた「そばぁとfrom戸沢村」の活動をきっかけに、学部の枠を超えて絆を強めた。
そばぁとfrom戸沢村のメンバーは、代表を務める工学部建築・デザイン学科2年の佐藤凪紗さん、医学部医学科2年の鈴木沙英子さん、農学部食料生命環境学科アグリサイエンスコース2年の紺野瑠里さん。
出身地も学部も異なる3人が出会うきっかけとなったのが、1年生だった2024年度の基盤共通教育の基幹科目「山形から考える」の授業の一つ「フィールドラーニング—共生の森もがみ」だ。学部、学科、専攻の枠を超えて本学の学生全員が受講し、最上広域圏8市町村の文化や歴史、自然、環境はもちろん、実際に足を運び、過疎化や少子高齢化といった現代日本が直面する地域の諸問題を現地の人たちと学ぶ。
戸沢村では、十数人のメンバーでグループ活動を行った。そのうち、佐藤さん、鈴木さん、紺野さんはたまたま宿泊先の民宿が同じだった。戸沢村を拠点に山歩きやそば畑の見学、そば打ち体験などを通して地元の人々と交流。かつてそば店を営んでいた民宿に滞在した際、壁に貼ってあったメニュー表に「そばがき」を見つけ、戸沢村産そばを原料にジェラートを作り、村の魅力を発信することを思いついた。
そばがきは「知らなかった」という3人。紺野さんは「民宿の方からデザートのような位置付けのそば料理だと教えてもらい、そばでジェラートを作って戸沢村の魅力を伝えたいと考えました」と発案のきっかけを明かす。
インターネットで調べたレシピをベースに、戸沢村の人々の協力も得てジェラート作りに挑戦。「最初はそば粉で作り、次にそばの実を煎って加えたら粘りが出てトルコアイスのようになりました。そばの風味も良くなって好評でした」と佐藤さん。
試行錯誤の末にジェラートが完成し、「そばぁと」と命名。名付け親の鈴木さんは「『そば』と『ジェラート』を組み合わせて『そばぁと』と思いつきで提案したら、二人が『いいんじゃない』と言ってくれて決まりました」とはにかむ。
1年生の時に受講したフィールドラーニングで考案した初代「そばぁと」。そばの風味豊かなジェラートにそば団子や山菜天ぷらを盛り付けパフェのような豪華な仕上がりに。
そばぁとを20食作り、戸沢村にある道の駅とざわ前の通路でモニター実験。ジェラートの下に玄米フレークを敷き、手作りのそば団子と山菜天ぷらを添え、味や食感の楽しさに加え、ビジュアルにも力を入れた。試食した客からは「天ぷらが面白い」「そばの風味がするジェラートがおいしい」など高評価。一方で、つなぎの小麦粉を使わずに十割そばのように作った団子は「硬い」という指摘もあった。
フィールドラーニングで意気投合した3人は講義を受講後、大学や地域との関わりを深める学生主体の魅力的な活動「学生チャレンジプロジェクト」に申請し、そばぁとの製品化を目指した。
「戸沢村を活気づける力になりたい」「戸沢村の魅力をより多くの人に知ってもらいたい」という3人の思いと企画力が評価され、そばぁとの製品化は2024年度の学生チャレンジプロジェクトに採択された。一般販売に向け、「フィールドラーニング—共生の森もがみ」の講義を担当する阿部宇洋(たかひろ)講師の紹介で、工学部の城戸淳二教授が社長を務める株式会社VEGEA(ベジア)の協力を得ることになった。VEGEAは本学発のベンチャー企業で、工学部が開発した特許技術「常温除湿乾燥」でジェラート、アイスクリームを中心としたOEM製造、製造委託を行っている。
そばぁとは、本学の小白川キャンパスと米沢キャンパスの生協コンビニ、道の駅とざわの3カ所で販売することが決まり、保存性や携帯性に優れたカップ容器に変更。そば団子などは添えず、主役のジェラートをブラッシュアップ。そばの風味をより際立たせるため、そば粉ではなく、戸沢村産そばの実に殻が付いた玄そばを粗めに挽いて使用することにした。
オリジナリティーを出そうと、味に一工夫。戸沢村は、以前から韓国と交流がある。佐藤さんは「バニラアイスクリームとキムチを一緒に食べてみたら意外とおいしく、そばぁとに七味を加えてみました」と話す。
学生チャレンジプロジェクトのそばぁとは、初代そばぁとをベースに味の向上を目指した。そば殻を粗く挽いて用いたため、ジェラートには黒い粒々が目立つ。七味の辛みがアクセントに。
VEGEAからのアドバイスを参考に、柑橘系の風味も加えた。紺野さんは「私たちなりに市販のそばアイスに柚子やオレンジなどを加えて相性を確認し、最終的に七味と柚子の組み合わせに決めました。爽やかな香りがふわっと広がり、後からのピリッとした辛さがアクセントになりました」と説明する。
パッケージデザインは絵が得意な鈴木さんが担当。戸沢村を流れる最上川をそばで表現し、舟下りにちなんだ舟、柚子と七味をイメージした2つのキャラクターを描いた。
実際に販売されたそばぁと。パッケージは手描きの下絵を取り込み、iPadを使ってデジタルで調整。鈴木さんは「自分がデザインしたカップで販売されているのを見て、すごく嬉しかったです」と笑顔を見せる。
戸沢村産そばの実を使ったジェラート「柚 & 七味入りそばぁと」は110個製造し、1個250円で2025年4月に発売した。フィールドラーニング、学生チャレンジプロジェクトでそばぁとの製品化を成し遂げ、3人での活動は一区切り。
農学部の紺野さんは「農学部の学びに共通する部分が多く、私が一番恩恵を受けたプロジェクトでした。1年生で商品開発に取り組み、自信につながりました。学生時代に取り組んだことの一つとして強みになると思っています」とにっこり。
街づくりに興味がある工学部の佐藤さんは「地域の強みを生かした魅力の発信の仕方を学べました。戸沢村で開催されたイベント運営を手伝い、地域の方々との交流から勉強になることも多かったです」と振り返る。
医学部に在籍し、医師を目指している鈴木さんは「民宿の方が風邪で病院に行く場合、車で40分もかかる場所にあるとおっしゃっていて、医療機関の不足を感じました」と、地域医療の課題を考えるきっかけにもなったという。
フィールドラーニングやチャレンジプロジェクトをきっかけに、多くの発見があった。一方で、VEGEAをはじめ学外との交渉、資金繰り、スケジュール管理などに苦労した。佐藤さんは「戸沢村のPRが目的でしたが、製造個数が少ないこともあり、販売場所が3カ所と限られてしまったのが反省点」と課題も挙げる。
良い点も反省点も含め、学部の枠を超えた学びは「大変さよりも楽しさの方が大きかったです」と3人は口をそろえる。そばぁとの製品化はもちろん、本学に入学したからこその出会いも大きな財産になったようだ。
他学部の同級生と協力して目標を成し遂げた3人は「多くの刺激を受け合いました」「自分ももっと頑張ろうと思いました」「さまざまな経験ができて楽しかったです」と声を弾ませる。
つづきを読む
さとうなぎさ●宮城県名取市出身。工学部建築・デザイン学科2年。そばぁとfrom戸沢村代表。建築士の仕事に興味を抱き、本学に入学。地域に根差した都市計画学や古民家再生への関心が高まっている。花笠サークル四面楚歌に所属。映画館でアルバイトもしている。
すずきさえこ●宮城県仙台市出身。医学部医学科2年。そばぁとfrom戸沢村メンバー。母は内科医、父は医学研究者ということもあり、医師を目指して本学に入学。サークルは少林寺拳法部、医学部ゴルフ部に所属。
こんのるり●茨城県水戸市出身。農学部食料生命環境学科アグリサイエンスコース2年。そばぁとfrom戸沢村メンバー。幼少期に祖父母が営んでいた農業を手伝い、農村部の活性化や山の整備への関心が高まり、本学に入学。サークルはバレーボール部、Team道草に所属。映画館と居酒屋でのアルバイトにも励む。
※内容や所属等は2025年5月当時のものです。